ハーグ条約に基づく子の返還の対象となる場合とは
ハーグ条約に基づく子の返還は、子が生活している場所から国境を越えて連れ去られた場合に問題となります(国内の移動は対象ではありません)。
例えば、海外で生活する夫婦で、夫婦の一方が、配偶者の承諾なく子を日本に連れ帰った場合や、日本で生活する夫婦の一方が配偶者の承諾なく、子を海外に連れ去った場合などです。
日本の裁判所で判断されるのは、子が日本に連れてこられたケースです。 裁判所で子の返還が認められるためには、1)子が16歳に達していないこと、2)子が日本国内に所在していること、3)子が生活していた国の法令によれば、当該連れ去りが申立人の監護の権利を侵害していること、そして4)子が生活していた国と連れ去られた国の双方がハーグ条約の締約国1であることが必要です。
返還が認められない場合とは
上記の要件を満たしていても、ハーグ条約に基づく返還が認められない場合があります。
法律2は、返還を拒否できる場合について定めています(28条)。
まず、子の連れ去りや違法な留置から1年以上経過し、かつ子供が連れ去られた国に馴染んでいると判断される場合、申立人が連れ去りまたは留置の開始前後に同意した場合、申立人が連れ去りまたは留置の前に監護の権利を行使していなかった場合、常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある場合(子供に対するDVがあった場合など)、子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいる場合(子の意見が重視されるのは子が10歳程度の年齢になっている場合が多いです)、などの場合が列挙されています。
専門家に相談することの重要性
子を連れて自分の出身国または第三国へ移動を考えている側は、国境を越える前に、承諾なく子を連れ去ることが子の返還の対象になるか否か、訴訟を提起された場合に返還を拒否できる場合に当たるかなどをあらかじめ専門家に相談することをお勧めします。
連れ去られた側としては、ハーグ条約に基づく返還請求が可能かを判断し、また連れ去りを認識した後どのような手続きを取るべきなのかについて専門家からアドバイスを受けて迅速に手続きを進めることが重要です。
1ハーグ条約の加盟国は外務省(中央当局)のHPで調べられます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html
2 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(ハーグ条約実施法)